サンシティは、入居時の駐車場は全戸数の32%しかなく、しかも入居時の抽選に
よって半永久的に使用が認められていた。駐車場不足は深刻な問題であったが、
十数年にわたる検討の結果、1999年2月に新北駐車場の増設(敷地面積970坪、
建築面積4800坪、5階建て6層、910台収容)が実現した。これにより、全戸数に
対する設置比率は63%になり、長年の駐車場不足は解消された。おそらく、民間
集合住宅では全国にも例のない大事業を管理組合員独自で成功させた初めての
例であろう。 |
1.駐車場増設までの経緯
1980(昭和55)年度 入居完了。駐車場は平面式275台、(南、中央駐車場)とRC1階建て2層式334台(北駐車場)の合計609台(設置率32%)。入居時より駐車場不足は深刻であり、空き待ち登録者は500人に達した。また、違法駐車も多く、駐車場問題は大きな懸案事項であった。
1986(昭和61)年度 現駐車場の1台あたりのスペースを縮小して、約40台の増設案が総会で了承される。
1987(昭和62)年度 実測の結果、増加分は20台程度と判明し、再検討となる。
1988(昭和63)年度 線引き直しによる増設案は不採用とし、基本的な考え方を整理した上でアンケートを実施。
1989(平成元)年度 公聴会を実施。議論百出。
1991(平成3)年度 北駐車場の簡易立体化案を中心とするアンケート調査を実施(賛成87%)。
1992(平成4)年度 北駐車場の屋上部分を機械式2層にして150台増設する案が固まるが、補強工事費が多額になることが判明、不採用となる。改めて専門のコンサルタント(ベクトル社)に調査・計画案を依頼(調査費800万円)。
1993(平成5)年度 ベクトル社による調査・立案作業。
1994(平成6)年度 調査結果まとまる。結果をもとに第1期工事300台増設し、将来さらに増設する案でアンケート調査。賛成66%で全戸の4分の3に達する見通しが立たず、総会提出を断念。
1995(平成7)年度 計画実施に向けたアンケート調査をするが、賛成62%のため今年も総会提案を見送る。総会での早期決着を迫られる。
1996(平成8)年度 本年度の決着を期し、三井建設の協力を得て平成9年1月
に「駐車場建設に関する提案書」を作成し、2月に説明会を開催。3月の定期総会
において82%の賛成を得て増設計画が承認される。
1997(平成9)年度 「駐車場建設専門部会」を新設し、4分科会を設置。8月に基本計画の説明会を開催。10月に住民説明会、東京都の公聴会を実施。12月に建築審査会許可を受けて臨時総会を開催し、代替駐車場や補償などを決定する。3月に着工。
1998(平成10)年度 10月に新運用ルール説明会・アンケート実施。平成11年 1月に車室決定会を実施し、2月竣工・利用開始。
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2.平成8年度の増設案作成が転機
平成5年度に契約したベクトル社の案は4層式の立体駐車場で291台を増設し、将来機械の導入によってさらに増設を図る案であった。これは建築基準法で、駐車場延床面積が1万uを超える場合は特別な手続きが必要と決められており、許認可を得るのが難しいとの判断からであった。しかし、それでは増設台数は不足分を満たすにはほど遠い上、1台あたりの増設費用も高額となり、増設費10億円の割には大規模工事のメリットが少なく、組合員の賛成は得られないだろうと判断した。
そこで抜本的に見直すこととし、当団地の開発者であり、行政との対応にも精通している三井建設に無償で大規模な増設の可能性を打診した。その過程で、昨今の駐車場不足に対し行政が前向きな姿勢であることが判明、1万uを超えるものに挑戦する方針へと転換した。実際に東京都と行った事前交渉で好感触を得たため実作業をスタートさせ、総会決議に向けた計画作成に着手した。 |
3.増設案の内容と資金計画
(1)増設場所 北駐車場(RC1階建て2層式)を撤去し、同敷地内に自走式立体駐車場を建設
旧北駐車場
(2)構造規模 鉄骨造、地下1階、地上4階、6層式、収容台数910台増設後駐車場総台数1,188台(全戸数に対する設置率63%)
(3)総工費 14億円
(4)資金計画 手持ち資金1.8億円、残金については「さくら銀行」から借り入れ、10年間で返済
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4.増設に際しての基本原則
@空き待ち希望者の要望を満たすものとする A緑地などの自然環境を破壊しない B歩行者・車両通行の安全面を十分配慮する C騒音などの発生しにくい建築物で、維持管理が容易なものとする D駐車場利用者の負担をできるだけ軽減する E車の非利用者には、建設時の金銭的な負担をかけない F全体積立金などの全住民の資産は流用しない G駐車場の増設によって生じた利益は全住民に還元する |
5.駐車場増設の意義
増設計画案の副題を「施設の充実とそれの伴う全居住者の利益拡大のための提案」としたように、より多くの賛同を得るためには、足りないから作るというだけでなく、さらに以下のような積極的な意義づけをした。
(1)駐車場不足の解消 平成8年度末の空き待ちは643台に達する一方、年間の入替えはわずか28台で、20年待ちの人もいて、既契約者との不公平が解消できず、再抽選方式への変更が求められるなど、住民同士の対立の可能性があった。また、違法駐車が多く、緊急時の安全面からも解決は急務であった。
(2)資産価値の向上 大幅な増設によって駐車場の要望はほぼ充足でき、これによって希望者分の駐車場を備えたマンションとして資産価値の向上が期待できる。また、増設によって資金面が充実し、さらに資産価値が向上される。
(3)収入配分額のアップと年度予算の安定化 下表のとおり、借入金の返済完了後は、各棟への配分金は現在の約3倍になると予想される。全体管理費への繰入額と合わせると、管理組合収入の約4割を駐車場収入が占めることになり、予算的に大いに安定する。今後ますます増加するであろう大規模修繕に備えることができる。
駐車場収入の使途 (千円)
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平成8年 |
返済期間中 |
返済後 |
全体管理費 |
25,700 |
36,500 |
84,400 |
各棟配分金 |
60,300 |
73,000 |
168,900 |
返済額 |
0 |
143,800 |
0 |
維持管理費 |
0 |
10,000 |
10,000 |
収入合計 |
86,000 |
263,300 |
263,300 |
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6.理事会・専門部会
増設の決定後の平成9年度からは、「駐車場専門部会」は「駐車場建設専門部会」へ衣替えし、さらに技術委員会、運営委員会、渉外委員会、財務委員会の4分科会を設けて細部を検討した。平成9年度の分科会の会議は総計64回、部会全体会は15回、その他諸官庁への陳情・折衝・公聴会・現地調査立会いなどは13回に及んだ。平成10年度も各分科会81回、部会全体会は12回、車室決定会21回が行われた。 |
7.増設決定後の難題 代替駐車場の確保
増設決定後の最大の難題は、代替駐車場の確保と移転ルールづくりであった。北駐車場に駐車する334台については、1年間の工事期間中移転してもらう必要があった。この人たちの負担を勘案し、管理組合が責任をもって移転先を確保した。
(1)敷地内仮設駐車場 身体不自由者を有する人やその家族、商業や業務上欠かせない人のために検討し、敷地内7箇所45台の仮設駐車場を確保した。これは、完成後現状復帰することの条件で臨時総会で承認された。
(2)外部代替駐車場 近隣の2箇所を借地し、56台分の駐車場を確保したのをはじめ、必要台数分を賃借した。外部駐車場は8箇であったが、各棟からの距離も異なり、一方で移転しないで済む利用者もいる。不公平解消のため、距離に応じて料金を値引きする補償方式を採用し、その分は管理組合が補填した。
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8.駐車場の場所決め
平成10年4月より各棟(11区分)に分かれていた空き待ち名簿順を公示し、異議申立期間を設けた上、6月末までに全体の600名以上の空き待ち者順に一本化した。 その後、旧北駐車場利用者の復帰順位を代替駐車場の利用区分別に抽選、新規利用者、賃貸者、2台目利用者の申込みを順次受け付け、合計950台分の車室選択順位表とし、これも公示の上利用予定者名簿を確定した。 |
9.増設計画成功のポイント マンション法に定める4分の3の賛成を得ることはほとんど不可能に近い数字と思われたが、それを可能にしたのは次のような条件が整ったためと思われる。
(1)順風をつかむ 「規制緩和」「低金利」「低建設費」という三点セットの絶好の機会を捉えることができた。特に資金計画では、当初金融公庫のリフォームローンを利用するつもりであったが、これには総工事費の80%以内という条件があった。20%の自己資金確保のため、新規契約者はもちろん、現契約者からも一律15万円の権利金を徴収する予定だったが、これではおそらく多数の賛成を得られなかったであろう。 幸い「さくら銀行」が全面融資してくれ、権利金徴収を撤回できたのが大きな分岐点となった。
(2)長期の活動と最後の決断 10年以上にわたる根気強い活動の成果であろう。歴代理事長が8名、関係理事、専門部会員を含めると多くの人がこの問題に関った。ほぼ意見が出つくしたところで、総会に諮って結論を出そうとした「決断」も成功の一因と思われる。「これでだめなら二度と増設できない」最良と思われる増設案を作り、最良の時期に提案したことが、みなの理解を得ることができたと思われる。
(3)意見を出し合うプロセスを重視 アンケートを重視し、専門部会で論議して諮問し、理事会で論議し、さらにそれを棟委員会に持ち帰って論議を重ねるというプロセスを大事にした。また、節目には何度も説明会を開き、多くの人の意見を聴取し、個人のメリットやデメリットを徹底的に論議する姿勢で臨んだ。多くの時間を要した分、提案した心情が組合員に伝わり、みなの理解と協力が得られたからであろう。
(4)日常のコミュニティ活動の成果 専門部会やクラブ評議会、グリーンボランティアなどの各種のボランティアが地域活動に携わっており、祭りなども盛大に催している。日常活動を活発に行っているコミュニティだからこそ、このような大規模な事業も実現できたのであろう。各方面のプロの人たちが、ボランティアとして自分の得意とするところを惜しみなく提供してくれる状況ができあがっているコミュニティは大きな財産であり、他に類のないものといえよう |